好きな曲を弾きたくて楽譜を探したけれど、マイナーすぎて売っていない。あるいは、動画サイトの「弾いてみた」を見ても手元が速すぎて何を完全にコピーできない。そんな時、最終手段として立ちはだかるのが耳コピです。
絶対音感がないと無理だと思われがちですが、実は訓練次第で誰でもできるようになります。初心者が挫折してしまう最大の理由は、聞こえてくる音を全部一度に拾おうとするからです。ボーカル、ギター、ピアノ、ドラム…これらが混ざった音の壁に挑むのは、装備なしで冬山に登るようなもの。
まずは、最も聞き取りやすく、かつ曲の設計図とも言える「低音」から攻略しましょう。華やかなメロディの裏で、地味に、しかし確実に鳴っているベース音さえ掴めれば、曲の構造は8割解けたも同然です。今日は探偵になったつもりで、音の足跡を辿ってみましょう。
今日の課題:すべての装飾を無視して、土台の「ルート音」だけを拾う
曲を家づくりに例えるなら、メロディやギターソロは屋根や外壁のデザインです。対してベース音は、家を支える基礎コンクリートです。基礎がわかれば、その上にどんな部屋(コード)が乗っているかを推測することができます。
今日の目標は、コード進行を特定する第一歩として、コードの根っこであるルート音を聞き取ることです。例えばCメジャーコードなら「ド(C)」の音がルートになります。多くのポピュラー音楽では、ベース(ベースギター)が小節の頭でこのルート音を弾いてくれます。
キラキラしたシンセサイザーや歪んだギターの音は、今のところノイズだと思って無視してください。意識を低い周波数帯域だけに集中させ、ボン、ボンと鳴っている一番低い音だけを追いかける。この「低音フィルター」を耳にかける感覚を養います。
やり方:低音探索の3ステップとキーの特定
耳コピを効率よく進めるための具体的な手順です。スマホのスピーカーでは低音が聞こえにくいので、できれば低音がしっかり出るヘッドホンかイヤホンを用意してください。
ステップ1:曲の構成地図を作る
いきなり楽器を持って音を探す前に、曲全体を把握します。紙とペンを用意し、「イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ」といった具合に、曲のブロック構成を書き出しましょう。耳コピは長丁場になるので、今どこをやっているか迷子にならないための地図が必要です。
ステップ2:ベース音をハミングして探す
ターゲットとする箇所の、小節の最初の音(1拍目)のベース音を聞きます。聞こえたら、その音程を口で「んー」とハミングしてみてください。
ハミングしながらギターの6弦や5弦を弾き、自分の声と同じ高さになるフレットを探します。もし3弦より高い音になったら、オクターブが違います。もっと低い弦を探しましょう。これが見つかれば、それがその小節のコードの正体(ルート音)である確率が非常に高いです。
ステップ3:終わりの音からキーを割り出す
いくつかのルート音が見つかったら、最後に曲のキー(調)を特定します。一番簡単な方法は、曲の最後の音が「ジャーン」と終わった時のベース音を確認することです。
多くの曲は、トニックと呼ばれる主音(キーの音)で終わります。もし最後の音がC(ド)なら、その曲はCメジャーキーかCマイナーキーである可能性が高いです。キーがわかれば、使えるコードの候補が7つ程度に絞り込めるため、闇雲に音を探す必要がなくなります。
NG例:ボーカルメロディからコードを当てようとする
初心者がやりがちな失敗は、歌のメロディを聞いて、それに合うコードを探そうとすることです。もちろん慣れれば可能ですが、難易度は非常に高いです。
なぜなら、メロディにはコードに含まれない音(経過音など)がたくさん使われているからです。例えば、Cコード(ド・ミ・ソ)が鳴っているバックで、ボーカルが「レ」の音を歌っていることは頻繁にあります。この「レ」を頼りにDコード(レ・ファ♯・ラ)を弾いてしまうと、曲の雰囲気とは全く違う響きになってしまいます。
また、ドラムのバスドラム(ドンドンという音)とベース音を混同してしまうのもよくある罠です。バスドラムは音程が一定ですが、ベース音は動きます。音の長さ(サステイン)に注目し、音が伸びている成分を聞き分けるように意識してください。
録音して確認→次回:ベース音だけで弾き語ってみる
ルート音が拾えたら、その音だけ(単音)を弾きながら曲に合わせて歌ってみてください。和音がなくても、意外と曲として成立していることに気づくはずです。
もし違和感がある場合は、半音ズレているか、ベースがルート以外の音(分数コードなど)を弾いている可能性があります。ですが、最初はそこまで厳密でなくても構いません。「なんとなく合っている」感覚があれば十分です。
ルート音という座標さえ手に入れば、あとはそこに「明るい響き」か「暗い響き」を肉付けしていくだけでコードが完成します。次回は、このルート音を手掛かりに、パズルのようにコードを当てはめていく理論的なテクニックを紹介します。まずは低音の海に潜ることに慣れておいてください。

