前回、曲のキーを探し出し、ベース音(ルート音)を聞き取る方法をお話ししました。これができれば、耳コピという名の迷宮探索において、現在地と目的地がわかったようなものです。しかし、その間にどんな道(コード)が通っているのかは、まだ霧の中かもしれません。
世の中には星の数ほどのコードが存在します。それを一つひとつ当てずっぽうに弾いて確認するのは、あまりに効率が悪すぎます。そこで登場するのが、音楽理論という名の「攻略本」です。特に「ダイアトニックコード」という法則を知っていると、使えるコードの選択肢が一気に絞り込まれます。まるで犯人候補が7人に絞られたミステリー小説のように、謎解きがぐっと簡単になるのです。
今日の課題:無限の可能性から「7つの候補」に絞り込む
音楽理論と聞くとアレルギーが出る人もいるかもしれませんが、安心してください。今日覚えるのは「あるキー(調)で使われるコードは、基本的に7つしかない」というルールだけです。
例えば、カラオケでキーを変えずに歌う時、その曲の世界観は一定のルールで守られています。このルールの中で使える「スタメン選手」が決まっているのです。これをダイアトニックコードと呼びます。
例外的なコードが出てくることもありますが、ポップスの8割〜9割はこの7つのコードだけで構成されています。つまり、闇雲にコードを探すのではなく、この7つの中から正解を選ぶ「選択問題」に変えてしまえばいいのです。これなら勝率がグンと上がる気がしませんか。
やり方:Cメジャーキーの「家族構成」を覚える
理論を最も単純化するために、ピアノの白鍵だけで弾ける「Cメジャーキー(ハ長調)」を例に見ていきましょう。前回見つけたキーが「C」だった場合、出てくるコードは基本的に以下の7つです。
- 1. C (メジャー)
- 2. Dm (マイナー)
- 3. Em (マイナー)
- 4. F (メジャー)
- 5. G (メジャー)
- 6. Am (マイナー)
- 7. Bm-5 (マイナーフラットファイブ ※あまり出ない)
ここで重要な法則があります。
1番目(C)、4番目(F)、5番目(G)は明るいメジャーコード
2番目(Dm)、3番目(Em)、6番目(Am)は暗いマイナーコード
この並び順は、キーが変わっても共通です。もし前回聞き取ったベース音が「レ(D)」だった場合、Cメジャーキーのルールに当てはめると、2番目の音なので「Dm(Dマイナー)」である確率が非常に高いと推測できます。
また、コード進行には「定番の型」が存在します。
- カノン進行:C→G→Am→Em…(あの有名なカノンと同じ、感動的な流れ)
- 4度進行(強進行):Em→Am→Dm→G→C(解決に向かって進む、引力のような強い流れ)
こうした法則を知っていると、「次はGが来たから、解決するためにCに行きたがるはずだ」といった予測が立つようになります。耳だけで聞くのではなく、頭で予測して耳で答え合わせをする。これが耳コピ上級者の思考回路です。
NG例:理論用語の暗記に時間を使いすぎる
ここで陥りがちなのが、理論書を買い込み、「トニック」「サブドミナント」「ドミナントモーション」といった専門用語を必死に覚えようとすることです。もちろん知識としてあるに越したことはありませんが、用語を覚えること自体が目的になってはいけません。
大切なのは名前ではなく「響きの役割」を感じることです。
- トニック(Cなど):家。安心する。終わった感じがする。
- ドミナント(Gなど):冒険のクライマックス。緊張感があり、早く家に帰りたくなる。
- サブドミナント(Fなど):ちょっと寄り道。展開をつなぐ。
このように、感覚的なイメージで捉える方が実際の演奏には役立ちます。「ここではGが鳴って緊張感が高まったから、次はCで落ち着くだろう」というストーリーを感じ取ってください。用語の暗記に時間を使うより、実際の曲で「このコード進行、よくあるパターンだ!」と気づく経験を増やす方が遥かに有益です。
録音して確認→次回:予測が当たった時の快感を味わう
前回聞き取ったルート音のメモを見ながら、このダイアトニックコードの法則を当てはめて弾いてみてください。ベースが「ミ(E)」なら、まずは「Em」を弾いてみる。もし明るい響きがするなら例外的に「Eメジャー」かもしれませんが、まずはセオリー通りに試します。
録音した原曲と合わせて弾いた時、自分の予想通りにコードがハマった瞬間の快感はたまりません。それは単なる偶然ではなく、あなたが音楽の構造を理解した証だからです。
さて、曲の骨組みが見えてきたところで、次はいよいよそれをギター1本で表現する楽しみについてお話しします。コードをジャカジャカ弾くだけでなく、メロディも一緒に奏でる「ソロギター」。難しそうに見えて、実はここまでの知識があれば入り口はすぐそこです。

